パナソニックの使用済み乾電池が農作物の肥料になる!? ―リサイクルプロジェクトについて担当者が舞台裏を語る―
皆さん、こんにちは。パナソニック エナジー「inside story」編集部です。
先月、当社は「TOMATEC社との使用済み乾電池を微量要素肥料(※1)の原料とするリサイクルプロセスの共同開発」について発表しました。
そこで、今回は共同開発に携わった当社の担当者にインタビューを行いました!
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
※1 微量要素肥料とは、少量ながら植物の生育に欠かせない栄養を補給するための肥料です。微量要素には、亜鉛・マンガン・鉄・ホウ素・銅・モリブデンなどがあります。
使用済み乾電池で社会課題を解決したい
―今回のリサイクルプロセスのポイントを教えてください。
当社製の使用済み乾電池からブラックマス(※2)を分離させ、その粉末を原料とする微量要素肥料の製造・販売までの一貫したリサイクルプロセスを電池と肥料メーカーが共同で先駆けて確立したという点です。
今回は、当社製の乾電池を対象としているため、製造過程から使用後の電池の成分や状態が把握でき、液漏れした乾電池でも肥料の原料としてリサイクルが可能です。微量要素肥料メーカーのパイオニアであるTOMATEC社の技術力も合わさってシナジー効果が生まれました。
この取り組みは、使用後に廃棄される電池を資源として再利用するという乾電池の新たな価値拡張にもつながると考えています。
※2 ブラックマスとは、亜鉛やマンガンなどの成分を含む混合粉末です。
協業が進む中で見つかった共通点
―今回、電池以外へのリサイクルに取り組んだ理由について教えてください。
理由は主に2つです。1つ目は電池リサイクルの取り組みを単なるCSRや一過性のイベントではなくサステイナブルに継続するために、回収した使用済み乾電池を新たに価値のあるものに代え、再資源化を通して新たなビジネスまで発展、昇華させたいと考えました。
2つ目は地球規模の課題解決につながる取り組みをしたいという思いです。私たちのミッションにある「持続可能な環境」をつくるためにも社会課題に企業として積極的に関わっていきたいのです。
そこで、使用済み乾電池を価値あるものとするために再資源化先を探索する中で、肥料の原料になる可能性があるということが分かり、日本国内で長年にわたり肥料を開発しているTOMATEC社に出会いました。
―実際にTOMATEC社とどのように関係を築いたのでしょうか。
他業界ということもあり今までつながりはなかったので、企業ホームページのお問い合わせフォームから連絡しました。幸いにも早々にTOMATEC社からご返信があり、資源の再利用にご関心があり電池由来の肥料に可能性を感じていただきました。
2023年の7月から、パートナーとしてまずは電池に含まれる亜鉛成分などが肥料に適しているか成分を評価し、共同で肥料原料を実現するための研究が始まりました。
―実際に協業が進んでいく中で、TOMATEC社との共通点があると伺いました。そちらについて教えてください。
両社がそれぞれの電池・微量要素肥料分野で長年事業を行ってきただけでなく、経営理念という点でも私たちのミッションやビジョンと共通した部分があったことです。実際の協業の中でもお互いに大義のある事業を目指しましょうという思いを当初から共有していました。
実は、後日にTOMATEC社の親会社である東洋製罐グループさんの記念館を訪れた際、創業者・高碕達之助さんとパナソニックグループの創業者・松下幸之助の間には、親交があったなどのつながりがあることも知りました。実際に見学では、約80年前に当グループの創業者から高碕さんに送られた背広の箱なども拝見しました。
また、高碕達之助さんの理念の一つに「小成に案ずるは退歩である」というお言葉があり、まさに当社のミッション、ビジョンと共通する部分がありました。
一歩進んでは二歩下がる、それでも誰かのエナジーになるために行動し続ける
―TOMATEC社と協業を進める中で苦労した点はありましたか。
1番大変だったのは、私たちの専門知識の不足を補うことでした。「肥料って何?」というところからのスタートだったので、基礎的な情報収集から始まりTOMATEC社の別府試験農場も2回ほど見学させてもらいました。試験農場ではさまざまな土壌、作物の試験栽培がされています。その中でも微量要素肥料の効用比較として実際に現場で大きく育ったショウガを見ることで、肥料の効果などを実感しました。
その後も使用済み乾電池を破砕し、手作業でふるいや磁選などの作業を重ね、肥料原料に適した状態のブラックマスに分離するべく試行錯誤を繰り返し続けました。長い年月をかけながら共同開発したものだからこそ、実際にサンプル肥料ができていくときは感動しましたし、その後のモチベーションにもつながりました。
―未知の領域への挑戦は困難があったと思いますが、それでもやり続けられた原動力は何だったのでしょうか。
それは「社会課題の解決に貢献する」強い意志があったからです。ときには上手くいかないもどかしさもありました。しかし、使用済み乾電池の再利用が微量要素肥料の原料となれば、電池のリサイクルだけに留まらず、より効率的な作物栽培から食料生産の安定化にもつながるかもしれない。そして、その先にある食糧問題や農業問題なども解決する一歩になるかもしれない。そんな風に未来起点で物事を考えて励みました。
当社のビジョンである「未来を変えるエナジーになる。」の"エナジー"は、電池だけを示しているのではないと捉えています。今回の電池由来の肥料からより良い作物栽培を通じて「人々の健康のエナジーになる。」や「農業者の作物効率をよくするためのエナジーになる。」といったものにもつながると思っています。
今は小さな芽ではありますが、将来的に社会課題に貢献できると信じ、その「意志」が「私のエナジー」となって今回の取り組みにつながっています。
―楽しさややりがいはありましたか。
本取り組みに共感し合えるメンバーが部門を越えて集まり、試行錯誤しながらも電池由来の肥料を実現させたこと、また経営幹部や関係者からも取り組みへの理解と支援を得られたことがとても励みになりました。さらには、TOMATEC社の幹部の方が乾電池を製造している二色の浜拠点にも来てくださり、リサイクルプロセスの共同確立だけでなく、今後の取り組み拡大に向けた関係強化ができたことも非常に嬉しく思いました。
未来起点でさらなる電池の価値を拡張していく
―当社の他の環境の取り組みについて教えてください。
当社の乾電池事業では、これまで国内外で使用済み乾電池の回収やリサイクル取り組みを実施し、また電池材料にリサイクルする実証実験、紙由来のエシカルな乾電池パッケージ開発によるプラスチック使用量の削減などに力を入れてきました。
また、パナソニック エナジー全体としては現在国内の全拠点でCO₂排出ゼロ工場を達成し、2028年度中には海外の全拠点も含めてのCO₂排出ゼロの実現を目指し、取り組んでいます。
―最後に今後の取り組みについて一言お願いします。
まずは、電池リサイクルを「持続可能」なスキームとして構築し、その後規模を拡大していくことです。そのためには、使用済み乾電池の更なる効率的な回収方法や再資源化プロセスの研究、確立に共感いただけるさまざまなパートナー企業様と取り組んでいきたいと思っています。
肥料だけでなく、電池材料への再資源化など、さまざまな活用方法を増やし、今までは使って終わりだった乾電池の「価値拡張」にチャレンジしていきます。
おわりに
使用済み乾電池から肥料が生まれることは、読者の皆さんにとっても
新しい発見だったのではないでしょうか。
いずれどこかで皆さんの召し上がる食材に今回の肥料が使われているかもしれませんね。今後もこのようなリリースにまつわる舞台裏を発信していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。